父のへっぽこエピソード

教師への道のり

私の父は教員をしている。

正確にはしていた。(今は校長になってしまった)

皆さんはご存知であると思うが、

世の中には教員採用試験というものがある。

父が試験を受けたのは、

今から約35年前のことである。

どのくらい様変わりしているかは想像もつかないが、

当時のエピソードで聞いたものを紹介する。

試験はもちろん試験会場というものが用意され、

受験生たちは皆そこに足を運ぶ。

父の時の試験会場は土足で入ることは出来ず、

皆スリッパを持参して来ていた。

当時の父も、もちろんスリッパを履き面接を受けた。

緊張の中、なんとか面接が終わり、

「失礼しました」と部屋を後にした。

一度でも就活をしたことのある人なら

必ずやったことがあるであろうが、

面接が終わり退出しようとする時、

部屋のほうを向き、

軽く頭を下げながら扉を閉めるだろう。

旅館とかで仲居さんが

プロフェッショナルにやっているあれである。

今でこそユニバーサルデザインとか、

バリアフリーの建物がかなり増えて

一般的になってきているが、

30年前は教育的施設であっても、

まだその波は普及していなかったらしく、

部屋と廊下の間には段差があった。

ミスは許されない

このとき、父は1つの思い込みから、

ある致命的なミスを犯してしまった。

まず父はこう思った。

「あれ?先にお辞儀するんだよな…?」

普通は退室する時、

扉の手前でありがとうございました的な挨拶と、

お辞儀をしてから、

向こう側、廊下に出た後で失礼しました、

とか言いながら軽く頭を下げつつ扉を閉める

というのが一般的ではないだろうか。

父はその時、まだ扉の手前、

室内に体がある状態で扉に背を向け、

面接官の方に深くお辞儀をしてから、

思ってしまった。

「あ、これ出てからやるやつだわ…」と。

父は一気にテンパった。

そのまま頭を上げて、

廊下に出てから普通にお辞儀をして

立ち去れば良かったものを、

一回頭を下げてしまうと、

もう頭をあげてはいけないという

わけのわからない状態になってしまったらしく、

父はお辞儀をしたまま、なんと、

そのままお尻から後ずさりして廊下に出はじめた。

すり足のお辞儀ニンジャ現る!である。

お辞儀ニンジャががすり、すり、と出ていく。

…よし、なんとか廊下まで出ることができた。

トリアエズデタ!

トビラシメル!

オレタチニンゲンクウ!

状態になった父はすかさず扉を閉めた。

お辞儀をしたまま。

そして、すごいことに気がついた。

__スリッパが、片方無い。

 スリッパを室内に片方残したまま、

 俺は退室してしまった。

 これはどうしたらいいんだ?!

 取りに戻るべきか?!

 そのまま立ち去るべきか?!

 正解はあるのか?!

 これ減点される?!

すごくわかりやすいパニックに陥ったという。

室内にはスリッパが一足だけ残された。

想像すると非常にシュールな画である。

自分の中で一通り必死に問答を終えた後、

結局スリッパは取りに戻らないという結論に達し、

そのまま父はその場を後にした。

のちにこのエピソードは『シンデレラ』

と呼ばれるようになったという。

めでたしめでたし。

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