タイトル通りなのであるが、
今になって思い返すと、
なかなか非凡なことなのかもしれないので、
書いてみようと思う。
の記事でもチラッと書いたことがあるが、
クラブ店員だった大学生時代、
私には中途半端な関係の大好きな男がいた。
名前をKという。
身長が高く、バスケをやっていた。
基本的に勝気な顔と性格で、
いつもチャイナブルーという
青色のカクテルを飲んでいた。
みた感じちょっと性格悪そうだが、
どことなく憎めないというか、
不思議と人を惹きつける魅力があった。
私の後輩は、
「あいつ「舌が青くなった」ってベーって
してるくせにカッコつけてて、バカだし、
先輩がハマるのはマジで意味わかんないです。」
と憤っていたので、
私の目も当時からそこそこ節穴
だったことは確かである。
さて、私はその時代は
当然のごとく遊びまくっていたので、
うちの店で出会った当初は、
未来のことなど全く考えず、
とりあえず面白そうだから遊んでみるか、
ぐらいで始めた関係であった。
結果的に、
私は不思議と、
Kのことがすごく好きになった。
Kはいい意味でアホだった。
頭でっかちな私は時として、
一緒にいて何も考える必要のなくなる男というか、
その時その時の楽しさだけを考えて生きる、
みたいなハッピー野郎にハマることがある。
そういうやつは良くも悪くも真っ直ぐで、
今に集中できるのである。
で、1つ残念な点があったのだが、
Kには結構長い期間付き合っていた彼女がいた。
私はKと付き合いたい、とか彼女と別れて、
とはあまり思わなかった。
以前に彼女を連れて店に遊びにきた時に
チラッと彼女を見かけて、
それなりにいい子そうだな、と思ったので、
人の幸せを壊しちゃいかんな、
とりあえずバレないようにしなくちゃな、
とは思っていた。
出会った時にそうなんだったらしょうがない、
期限付きの関係を楽しむか、
というスタンスは今でも基本的にそうだが。
Kとある時、電話で会話中に、
ふと思いついて聞いてみた。
「彼女が100だったら私はどのぐらい好き?」
この何の気無しの質問が間違いの元だった。
Kはご存知の通りアホであるので、
「んーー95ぐらい好き!!!」
と誇らしげに答えた。
この返事を聞いて、
私の脳内は瞬時でいろんなことが駆け巡った、
と同時に気づいてしまった。
__ほんとこいつはバカだなあ、
正直すぎるんだよお前は、
でも彼女のことはちゃんと好きなんだな、
ていうかこの差って何だろう、
たった5%の差って何だろう、
私は価値がない女?
私 は 私 は 私 は、
Kは私のものにならない、
どうすれば幸せになれる?
Kのことが好き、
というメンヘラ的思考が
この間マジで一瞬で駆け巡った。
「何それ?!最低だねー!!」とゲラゲラ
笑っている間に巡ったのである、頭の中を。
そして、今までプライドの高さから、
遊びは遊びと割り切って付き合えてきたものが、
意外なところで自分が本気で、
その辺のメンヘラ女がやってるような軽蔑すべき
マインドを自分も立派に持ってしまっている、
ということに、気づいてしまったのである。
こんな男のことが本気で好き、
という事実は私を大いに狂わせた。
それから、Kが店に来て、飲んでいても、
私はあまり嬉しいと思えなくなってしまった。
あいつが連れてくる友達や、彼女や、
いろんな関係に、店員の愛想のいい上っ面で
接客するのが本当に苦痛だった。
そんなイライラしている私とKが、
ちょっとしたことで言い争いになり、
ロッカールームの奥で口論の末に、
キスしていたところをたまたま当時の
マネージャーに目撃され、
その日のミーティングで、
私が見事に吊るし上げられたのが上記の
でも書いた事件である。
今考えるとマジでくだらなさすぎる。
そんなことで時間を使わせた後輩たちには
本当にごめんとしか言えない。
でもそんなキャラじゃない私が、
そんなことになっちまっていたのは
ちょっと面白いと今でも思う。
マネージャーに
「りょう!!お前なあ!!
ここはイチャつく場所じゃないんだぞ!
よそでやれ!!」
と怒鳴られ、
ミーティング終了後に
「お前…あいつが本気で好きなのか?」
「はい…ズルズル(鼻をすする音)」
「あいつはやめとけ。」
「ううう…」
というやりとりをしたのも記憶に新しい。
ところで、
『終わり』が近づいて来てから、
去って行くまでのスピードは、
本当にF1カーぐらい速い、
と思っている。
当時、Kは名古屋で仕事を始め、
彼女も一緒に同棲をしていたのだが、
ある秋、彼女が家を開ける3日間、
私はKの家に泊まりで遊びに行くことになった。
Kが仕事中に近くのイオンモールで
買い物をして、
家に帰ったらご飯を作って、
2人で食べて、
みたいな彼女が知ったら発狂しそうな
3日間を過ごした。
でも、発狂しそうになったのは、
私の方だった。笑
Kが仕事に行っている間、
彼女とのプリクラや、
洗面所に置いてある化粧水や、
女物の数々を1つ1つ、
手にとって眺めた。
Kのことというよりも、
彼女の情報が1つ1つ頭に入ってきて、
いじわるするなんて発想も消え果て、
圧倒的アウェイ感を味わって、
涙を流すごとに少しずつ固めてきた覚悟を、
ようやく完成させるまでに至った。
最後の夜、
Kの腕枕の上で、後ろに寝息を感じながら、
バレないようにこっそりと、
声を殺して泣いた。
流れる涙だけはKの腕に落ちて、
それでも変わらぬ寝息のリズムを
感じながら眠りについた。
次の日、
帰りの名古屋の駅から在来線で
帰る車内、人目もはばからずに
ボロボロと泣いた。
目の前に座っていたのは
爆睡するおじさんでラッキーだった。
それからは、ショック療法とでもいうのか、
意外とすぐにKのことは忘れられた。
最後に電話で話したのは、
「あの夜、泣いてた?」
「うん」
「そっか」
ということで、
意外と気づいてたんだ、
という驚きぐらいしか覚えていない。
それからはKのことは完全に
「ダメな男に引っかかった」というネタとして
面白おかしく話せるぐらい消化できていたし、
離れてみてからようやく最低だな、
と思えたので、
このままできれば二度と会いたくない、
と私は思っていた。
Kは確かその彼女とは別れて、
そこから元キャバ嬢だかの子と結婚して、
割とすぐ離婚したらしい。
ほーらざまあみろーということすら、
一瞬笑って忘れるぐらいだったが。
ちょうど去年の春だ。
Kが死んだと、訃報が入った。
店にまだいる先輩から聞いた話では、
最近会った時は、
また新しく彼女ができて、再スタートです、
というところだったらしい。
Kは交通事故で亡くなった。
ニュースにもなったみたいで、
先輩から送られてきた映像を見て、
これが本当にKなんだなあ、
となんとも言えない感覚を味わった。
が、ショックではなかった。
正直言って、
彼は友達や家族はどうだか知らないが、
女性たちに関しては、
幸せにするということよりかは、
傷つけたほうが多いタイプであったので、
因果応報、とも思ったし、
あら、こういう形で現れるのね、と思った。
きっと人の死というものは、
尊ばれるべきであるとか、
最後はいいことを言ってあげるものだとか、
普通の感覚はそうなのだと思う。
私は、シンプルにびっくりして、
そうなんだ、因果応報ね、
他の人は知らないけれど、
私にとっては残念というより当然だね、
とスッと思って、それで終わり。
あなたに会えてよかったとは少しも思わないし、
学んだことも大してない。
軽めのネタができたぐらい。
私は是非みんなに惜しまれるような死を
迎えたいものだ、
みんなをハッピーにしよう、
と思えたことだけはKに感謝である。
最近職場の大先輩の女性が、
「ひどく男に傷つけられるでしょ、
辛い別れを経て、しばらくすると、
そのうち昔の男って死ぬんですよ。
見ててごらん、本当に死ぬから」
と言われてびっくりして、
Kのことを思い出したので、
長々と書いてみた。
皆さんは恨まれないように、
今そばにいる人は大事にしてあげてね。
終わり。