じいちゃんが1回死んで生き返った話

じいちゃんとは

さて、このエピソードを話す前に、

じいちゃんがどういう人間なのか、

ということを話しておかなければならない。

以前に母の話で詳しく話したので、

詳しい話はまず母の話を読んでもらってから

のほうがわかりやすいかと思うが、

簡単に話をすると、

このじいちゃんというのは

私の母方の祖父のことで、

地方のでかい農家の長男として生まれ、

母が早くに亡くなり、

後妻さんとの関係性に悩み、

母親にもっと愛されたかったというフラストレーション

を抱えたまま長男だから家を引き継がねば、

というプライドと責任感をぐんぐん成長させ、

あの世代にしては珍しく立命館を出て、

 

弟にも大学に行かせ、

その後県庁の土木課でダム建設などに関わり、

保守一徹、ほぼ右翼、学歴コンプレックス、

大事なものは家族より何より世間体、

昭和のモラハラ頑固おやじとして

母にしっかりと憎しみの鎖を引き継いだ

嫌な奴として、仕事人としてプロの人である。

じいちゃんは学歴コンプレックスの塊である。

他人に対する見方はほぼすべて、

「どこの大学出か」

「どの会社か」

「世間体的にどうか」

ということであり、

正直それ以外では相手のことを

まともに見ていない。

私の姉の双子が京大に合格したときなどは

かつて見たことがないほど喜び狂って、

親戚や知人に自慢の電話をかけまくり、

周りに一層嫌われたという強者である。

ここまで書くと私の身内に対する

愛が皆無で、鬼かよと思われてしまうかもしれんが、

割と鬼である。

そして私を鬼にさせるほど本当に

たいへんな人だったのである。

ただじいちゃんは本人の意図しないところで

コミカルな面やいいところもある。

本人はいたって真面目なのだが、

あまりに真面目過ぎてはたから見ていると

面白すぎて笑いが止まらなくなる奇跡を

頻繁に生み出すし、

仕事に対する姿勢は筋が通っていて、

本当に仕事だけしていたらよかったのに

とかわいそうになるほどの元仕事人間である。

中学受験

さて、私が小学校から中学に上がるとき、

当時成績の良かった私は大学の附属中学を

薦められ、なるほどそれじゃあ、ということで

中学受験をした。

その年はかなり倍率が高かったらしく、

10倍?だったか何倍だったか

もう覚えていないのだが、笑

とりあえず高い倍率を突破して

附中に合格したのである。

合格を祖父母に伝えたところ、

タイやヒラメの舞踊りで、

喜びの舞を踊るかと思うぐらいに

喜んでしまい、(Like a 竜宮)

じいちゃんは即座に

「今夜はうちに来い!

肉を買え!魚をさばけ!

すき焼きだ!刺身だ!酒だ!

槍をもて!!弓をもて!!

ものども!!であえ!!!」

というトランス状態の信長みたいになってしまい、

まあ私と父母は苦笑しながらも

じいちゃん家にお邪魔した。

ただちょうどその時、

おじいちゃんの家には

おじいちゃんの今は亡き妹、

”Sおばちゃん”という、

じいちゃんとは対照的に、とっても性格がよくて

優しいおばちゃんが滞在していたのだが、

ちょうどその時、おばちゃんはガンの治療中で、

一時退院という形で、じいちゃん家で療養しながら

滞在していた。

周りが引いてしまうほどに喜びの舞を

踊るじいちゃんなので、

ばあちゃんは、あまりにぎやかにすると

Sおばちゃんの身体に障るかもしれないから、

あんたそんなに騒ぎなはんなや、と

釘を刺しつつ、私と両親にごちそうを

出してくれた。

悲劇と奇跡

ところでじいちゃんは酒が大好きで、

(というよりアルコールが好き)

ウィスキーをビールで割るような人なのだが、

この時も例にもれず、

一升瓶を片手に、満面の笑みで私に

「受かったか!何倍だったか!

(倍率のこと)よかったなあ!!!」

とひたすら繰り返し続ける

壊れたおもちゃのようになっていた。

そして酒のペースは衰えず、

呪文のペースも衰えず、

満面笑みダルマのように顔が真っ赤になっていき、

そんなじいちゃんをまあまあと相手しつつ、

父も酒が入ってにぎやかになってきたところで、

「受かったか!!何倍でなあ!!

 いやあ………」

じいちゃんの呪文がピタッと止まった。

その場にいた全員がハッ…と息をのんで、

じいちゃんを見た。

じいちゃんの動きは完全に止まり、

静止画のようになっていた。

顔からは表情が無くなっていて、

「マネキンみたい…」と思ったのを

よく覚えている。

そして次の瞬間、じいちゃんはそのまま

横にバタッ!!と大きく倒れた。

ほんとにドラマみたいな倒れ方だった。

その場の全員が

「おとうさん!!!」

「あんた!!」

「じいちゃん!!!」

と叫び、駆け寄った。

息をしてない、ということを確認して、父が

「救急車を…!!!」と言いかけた瞬間、

ばあちゃんがそれを静止した。

「Mさん!!(父の名前)

 車(救急車)はいいけん!!」

と叫び、じいちゃんの身体を起こし、

なぜか手にはタオルを持ち、

じいちゃんの背中をすごい勢いで

平手打ちのように

「バンッ!!バンッ!!

 バンッ!!バンッ!!」

とたたき始めた。

長すぎた1分間

その場にいる全員が、

(いや、この倒れ方だとそれは効かない、

早くばあちゃん説得して救急車を呼ばないと…)

と思って「かあさん救急車呼ばないと!!」

と声をかけるも、

ばあちゃんは全く聞き耳を持たず、

「いいけん!!いいけん!!」

と叫びながら、

相変わらずすごい勢いで

「バンッ!!バンッ!!

 バンッ!!バンッ!!」

とじいちゃんに恨みでもあるのか

というぐらいに背中を叩きまくって、

ジリジリと緊迫する長ーい1分が経ったころ、

突然じいちゃんの身体がもぞ、と動いた。

「あんた!!」とばあちゃんは声をかけ、

フウーーーと息を吐いた。

じいちゃんはまるで眠りから覚めたかのように

ナチュラルに起き上がり、

まさかなのだが、開口一番、

「よかったなあ…!!!!」

満面の笑みでこう言い放ったのである。

その場の全員が

(いや、よくねえよ!!

と内心全力で突っ込んだが、

とりあえずは

「おとうさん大丈夫?!」と声をかけ、

「何がじゃ?!」

と全く記憶がなく、ただただ幸せそうな

じいちゃんを見てホッとする、

というほんわかムードまでなんとか回復した。

本人としては、空白の時間は全く記憶がないので、

皆が口々に大丈夫かとかもう飲むなとか

やれ身体をさすったりしてくるので、

不満だったらしく、

「ええい、かもうな!!」

と途中一瞬不機嫌になる幕もあり、

ただ、そんな中、

静かに深刻さを増したのがSおばちゃんであった。

Sおばちゃん的には、我が兄の倒れるところ

を見てしまい、まさしく顔面蒼白になり、

文字通り息を吹き返しはしたものの、

身体には確実に障ってしまい、

そのあとは寝込んでしまい、

そのことで母とばあちゃんから

じいちゃんが責められるも

記憶も悪気もなし、という複雑な後味を

残すこととなった。

とりあえず良いこのみんなは

正しい応急処置ときちんと救急車を呼ぶ、

これはぜひ徹底してほしい。

終わり!!

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