悲しき幼少時代
私は物心ついてから、
犬や猫などのザ・ペットと
呼べる類の動物を飼ったことがない。
私の実家は本来ペット禁止のマンションであったが、
どれだけよその家がこっそり小型犬や猫を
飼っていようとも、
決してうちも小型犬でも飼おうか、
とはならない親であった。
というわけで、しょうがないので、
今もばっちり存命中であるが、
私はミドリガメを飼う事にした、
今回はそんな話である。
キミニキメタアアア
当時、私んちのマンションの隣には、
花屋兼、ちょっとしたホームセンター&
ペットショップもどきのようなところがあり、
熱帯魚や小さめの水棲動物は
割といろんな種類を売っていた。
ある日私はそこで、
ミドリガメ(正式にはミシシッピアカミミガメ)
の赤ちゃんがいっぱい
売り出されているところに出くわした。
小学2年生のちっこい私の手のひらと比べても、
めちゃくちゃちっこい生まれたての亀たちが
ぴょこぴょこと動き回っている様は、
私のレーダーに十分すぎるぐらいの刺激を与えた。
(これなら飼ってもいいはずだ…)
と幼ながらに確信した私は、
手ごろなお値段のぴょこぴょこたちの中で、
ひときわ元気そうな亀を選び、持って帰った。
逸話はあっても普通は普通
名前は悩んだ末、マルとつけた。
当時私が好きだった本で、
「マチルダは小さな大天才」
という本の主人公のマチルダから2文字とって、
マルである。
悩んだ末には普通の名前になったが、
亀っぽい名前ですぐになじんだ。
家族には大歓迎はされないまでも、
ぴょこぴょこと動き回るマルはそれなりに可愛く、
姉や父も餌をあげてくれたりするようになった。
そして、マルはどんどんどんどん、
マジでどんどんどんどん大きくなっていった。
ああ無情
さて、ここで話しておかねばならない。
当時、私が今の実家である
そのマンションに引越してきたのは
小学2年生の時であった。
それまでは同じ市内にある祖母の家に住んでいて、
ザリガニを飼っていたことがある。
確か町内会の集まりで、側溝をみんなで大掃除しよう、
という夏のイベントがあって、
その時に私がちびっこゆえに、
半ば強引におじちゃんが捕まえた
アメリカザリガニをゲットさせられたのである。
___ところで、私は海老が大好物である。
ロブスターや伊勢エビなどの、
大型でハサミがガチャガチャしているのも大好きだ。
__更に言えば、
私はたまに冷蔵庫の奥で
カッピカピになった食材と出会うことがある。
やはり3本入りの人参のラス1などは
使い道を後で考えよう精神から、
個人的に価値が下がりがちになってしまう。
…決して言い訳をしたいわけではない。
だが、ザリガニは、その時「ペット」
として丁重に扱うには、
あまりに私にとって食材に近く、
かといってマジで食べよう、
となるほど衛生的に綺麗でも
美味しそうでもなかったのである。
行きずりのそこそこブスのメンヘラを
酔った勢いで抱いてしまい、
朝起きたら付き合うことになっていたという
後悔にちょっと似ている。
おばあちゃんちの軒下で、
夏の終わりに飼い始めたザリガニは、
それでもまだ世話をするうちはよかったが、
秋を経て、冬になり、
少しずつ私に忘れられていった。
そして春になる前、
彼らはミイラとなって、おばあちゃんの
「あっだー、りょうちゃん!!
か、なんかね!?(これは何?)」
という声とともに発見された。
回りくどくなってしまったが、
人は飽きる生き物だ、ということである。
マルに関しても、
ある程度大きくなってからは、
毎日は餌をやらない&私以外も餌をやるので、
気づいたら一ヶ月餌やってない?!
みたいなことが起きるようになった。
生命力の奇跡
さて、冒頭でも書いたが、
マルはまだ生きている。
ここからがマジで割とまともな本題なのであるが、
「ミドリガメはそう簡単には死なん」
ということなのである。
彼らは外来種である。本名は
ミシシッピアカミミガメという。
どこから来たのかがわざわざ名前に入っている、
練マザファッカーのようなド親切な名前なのである。
ミシシッピ川で生き抜く生命力は伊達ではない。
マルは、一ヶ月餌をやらずば、
自分の出したものをそのまま食べ、
水槽の水換えをサボらば、
甲羅の皮を頻繁に脱皮させることで
クル病などの甲羅の病気からも身を守る、
1人サバイバル状態でうちの水槽を生き抜いていた。
ちなみに冬は、
ある程度寒い気温に水槽を置いておくと、
冬眠を始める。
冬眠を始めるともはやこちらは
「死んでる…」
と毎日思って、でも春まで待ったほうが?!
ああどうしよう、と対して厚みもない心を
勝手に痛めるのだが、大丈夫である、
心配のあまり室内に戻すと、ゴソゴソ…と
「何だよてめえ起こしやがって…」
ぐらいの不機嫌そうな顔で起きてくる。
ああ寝てた方が良かった。3回ぐらい思った。
一度、うちの父の学校の校庭の横の、
池にマルを逃がしてやろうか、
という話になったことがある。
その時に、亀の世界では、
日本の在来種のクサガメやイシガメなどは、
こんな生命力の強い外来種に駆逐されつつある、
という話を聞き、
そりゃそうだろうと納得しかしなかった私は、
リリースを諦め、
距離を保ちながら飼っていくことを
ぬるっと決めたのである。
今でも
というわけで、今でもマルは、
うちの実家でひっそりとサバイバルしている。
今では直径20センチ近くになり、
水槽に指を近づけると
「ガッ!ガッ!!バンッッ!!」
と音がするほど指に食いつく姿勢を見せる。
なつく、というよりかは、
餌をくれる人間を覚えて興奮する、
という姿勢の方が強い。
これから亀を飼おうとしている、
という方は是非自分にドMの心があるのか、
と問いかけて、水棲動物ならではの
水換えや匂い問題と戦う覚悟ができてから、
それでも飼いたいなら飼うとよろしいかと思われる。
終わり。